中島先生便り
第18回 胆石症(中級者コース)

第18回は、胆石症の中級者コースで、6.急性胆のう炎 7.急性胆管炎 です。
6・7に入る前に糖尿病について話しておかなければなりません。糖尿病が6・7に強く関連しているからです。糖尿とは何か?おしっこに栄養分が流れ出ることである。

川には堤防があって、ふつうは川の水はこの堤防を越えることなく、サラサラと海へ流れていきます。山に大雨が振り、川の水が増えて、水位が堤防の高さを越えると、水が市街地に流れ込んでくる。出てきてはいけないものが出てくる。

出てはいけない糖が、腎臓の堤防を越えて、おしっこの中に出てくるわけです。なぜこんなことになるのか?血液中に糖がたくさんありすぎるから、腎臓でこの血液から尿をつくったときに、尿にも糖が混じってしまうのです。

それでは何故血液中に糖が増えすぎるのか?糖分の多い食べ物を一度にガバッと食べるからでしょうか。食べた糖分がすごいスピードで吸収されて血液中に出てくるからでしょうか。血液中に出てきた糖を処理するホルモンが足りないからでしょうか。ホルモンの力で糖を梱包処理してグリコーゲンという名前をつけ、肝臓という倉庫につめこむ際に、倉庫にガタがきているためにつめこむことができず梱包をほどいて再び糖が血液中に出回るからでしょうか。

この先説明していくとややこしくなるので、このへんでやめておきますが、とにかく血液中に糖分が過剰にあるのです。すると血液ドロドロで血のめぐりがわるくなり、体がだるくなったり、脳や心臓に硬塞をおこしたりします。とくに目に見えないほどの細い血管での血のめぐりがわるくなります。

細い血管はどこにあるか?網膜・腎臓・末梢神経です。網膜症で目が見えなくなったり、腎臓がわるくて透析になったり、手足がしびれます。おしっこの方では、糖が血液中の水分をひっぱりこんで出てくるので尿量が増える。夜中に何度もトイレに起きる、寝不足になる、おしっこがたくさん出るので喉が渇き、氷水を好むようになる。糖分でズワズワになった体には、バイ菌がつきやすいから水虫や蓄膿や中耳炎がいつまでも良くならずに、ジワ〜〜と続いていく。

私は以前、肝硬変や糖尿病の患者さんから採血して、血液中の白血球がばい菌を殺す力をどの程度持っているかということを調べたことがあります。非常にたくさんの方々から採血させて頂き、その結果をまとめて論文にし、博士号をもらいました。その Data から言うと、糖尿病患者の白血球は殺菌能力が弱いです。太っており、糖尿があって、胆石もある人が、ある日突然痛んで高い熱が出る、胆のうに膿がたまってパンパンに張り、病院へ駆け込んでくるというパターン・・・・・・非常に多いです。

6.急性胆のう炎

肥満・糖尿・胆石と3拍子揃った人が、右上腹部に痛みを訴え高熱を出しているときは、急性胆のう炎と考えてまちがいないです。昔はまず胆のうに管を入れて中の膿を吸い出し、1週間くらい抗生物質を打っておちつかせてから手術というのが一般的でした。しかし今では、直ちに手術という人の方が多いでしょう。その手術を腹腔鏡でやると、胆のうはパンパンに張っているし、周囲の炎症反応は強いしで、とにかくやりにくく、骨の折れる仕事です。通常どおり開腹してやれば、傷は付きますが早いし安全です。私の経験から言うと “急性胆のう炎は、腹腔鏡で try してよいが、決して無理をせず、やりにくければ開腹手術へ convert=変換した方が安全。”という意見です。

したがって、太っており糖尿もあって、胆石持ちだが今はあまりたいした症状なしという方は、急性胆のう炎になる前に、腹腔鏡で胆適してもらうようおすすめします。そうすることによって、手術創の大きさ、費やす時間とお金が1/3になるでしょう。

54歳男性、太っており糖尿あり。胆石持ちで時々痛んでいたが手術が恐くて何年間も放置して医者にかかりませんでした。この間、酒も飲み油物も好んで食べていました。ある日、急にお腹が痛くなり、高熱が出たので病院へかけ込んできました。私が担当しました。まだ若かった。検査の結果は、急性胆のう炎。手術はかなり大変でした。

胆のうはパンパンに張っており、その中には汚くて臭い膿が多量にたまっていました。横行結腸や十二指腸との剥離もたいへんで、胆のう動脈をなかなか同定できず、時間がかかりました。やっとのことで胆のうを摘出し、その場で切開してみるとドロドロの汚い壊死性胆のう炎でした。

その中にちょっと気になる部分があって “癌ではないか?” と思ったので、術中迅速病理検査に提出。病理医の答は「癌ではありません、炎症です。」。ホッとして閉腹し手術を終了。ところが標本をホルマリン固定して提出した永久標本の病理結果は「急性胆のう炎の中に癌あり。」。術後2週間経過してヤレヤレと思っている患者を説き伏せて再開腹し、肝臓をけずり、胆道を切除再建し、リンパ節を郭清しました。ところが、その後それこそアッという間に多発肝転移が生じて、半年後に亡くなりました。

このような症例は非常に稀ですが、実在します。胆石に急性胆のう炎という病態が加わることによって、手術がやりにくくなる、そのことはまだ許せるとしても、癌が合併しているのか否かの判断が困難になることを教えてくれる症例でした。

この判断を誤ることは許されない。この症例に関して、私は誤診をしたことになります。その誤診に少なからず影響を与えたのが “糖尿病” でした。もしこの人に糖尿がなければ、膿がたまることはなく、胆石の傍に “できもの” があることが術前のEchoやCTで診断できたでしょう。癌の疑いで手術に臨み、定型的な胆のう癌手術が行なわれ、再発なくうまくいっていた可能性がある。

60歳男性、太っており糖尿あり。胆石が痛んで七転八倒し、熱も出ている。典型的な急性胆のう炎。結論から言うと黄色肉芽腫性胆のう炎と呼ばれるもので、癌に似ているが癌ではない。癌と思えば癌でなくて、癌を否定してヤレヤレと思えば実は癌・・・・全くよく裏切られます。

この人の手術も大変で、あろうことか、私は過って右肝動脈を傷付けてしまいました。これまで胆摘を何百例やったのかカウントさえしていませんが、右肝動脈を切ってしまったのは、この1例だけで若かった私は、相当におちこみました。幸い患者さんはすぐに元気になり、退院しましたが、この技術的な失敗の場面は今でも目に焼きついています。

同じ胆石でもここまでひどくなると手術が難しくなる、難しくなれば失敗の率も上がる。糖尿が手術をむつかしくしているのです。私は、同じ手術を受ける患者さんが2人いて、1人は糖尿あり、もう1人は糖尿なしとした場合、糖尿ありの患者さんの手術代を5倍くらいにしたらどうかと思っています。もっともお金のことは厚生労働省のお役人が決めることであって、私たち医者が決めることではありませんが・・・・・。

7.急性胆管炎

biliary tree(←第17回参照)の袋小路=病気生産工場=胆のうに問題が生じるのは、まだ可愛いもの。biliary treeの幹に当たる胆管に問題が生じると厄介なことになります。胆のうに発生した石のかけらや泥が胆管におちこんでひっかかると、痛みや発熱以外に、下手をすると黄疸が出ます。肝臓でつくられた消化液=胆汁が、腸へ流れ出る道がふさがれてしまうからです。ここに糖尿が一枚かむと胆管炎が重症化し、命にかかわる病態へ発展しやすいのです。

62歳男性、ひどい糖尿あり。腹痛、黄疸、発熱で緊急入院しました。石が胆のう、胆管にできており、急性胆のう炎、急性胆管炎をおこしています。すぐに開腹。胆のうは膿でパンパンに張っていて、やりにくいことこの上なし。胆摘した後、胆管を開いて大そうじです。手術はうまくいって元気で退院しましたが、もし処置が後手後手にまわると胆管炎から敗血症に陥るパターンです。

このような胆管の問題は、実にいろいろな病変へと発展していきます。
第1に黄疸+敗血症のコース、第2に急性膵炎のコース、第3に膵胆道癌合併見落としのコース、第4に瘻孔形成自然治癒のコース、などなど。

糖尿のある方は、第1のコースへご案内です。運の悪い方は第2のコースです。主治医が慎重を欠く場合は、稀ながら第3のコースもあります。1、2、3ともに命にかかわりますが、ごくたまに第4のコースに入ってくる幸せな人がいます。日頃の行ないが良いのでしょう。

第1のコース(黄疸+敗血症)に入りかけながらそうならなかった奇妙な症例の話をしましょう。
80歳女性、胆のうおよび胆管に石ができて、他院で胆摘+胆管大そうじをした方。胆管を切開した穴から大そうじをするのですが、大そうじのあと、その穴をすぐに閉じると、胆管=biliarytreeの幹が狭くなるという昔からの言い伝えが外科にはある。それでその穴に T-tube というゴム管をしばらく留置して胆汁を体外に誘導するのです。

このおばあちゃんは術後3日目の晩に過ってゴム管をひき抜いてしまいました。胆汁がお腹の中に漏れ出したのは当然で、主治医は、再開腹して処置したそうです。なんとか recover して退院し、家で元気にしていましたが、1年後腹痛と発熱で、当院へとびこんできました。

このとき初めて、このおばあちゃんを初診した私が得た information は、1年前に胆のう胆管結石で手術を受けたこと、その後1年元気であったこと、診察上、盲腸や潰瘍ではなさそう、とにかく右上腹部に何かありそう、しかも今すぐあけなければならないということ。

すぐにあけました。1年前の手術に起因する癒着をかきわけていくと、深いところに膿がたまっており、これを吸引してあたりをきれいにして、よく見ると、なんと胆管に大穴があいており、そこから胆汁がドロドロと漏れていました。この大穴から胆管の中を調べてみると1年前に大そうじしたはずなのに、大きな石がゴロゴロとでてきました。

1年前の手術のあと胆管に再び石ができた→胆汁の流れがせきとめられた→通常なら胆汁成分が肝臓から流血中に backflow して黄疸・敗血症のコースに入るのに→1年前の手術のときの胆管切開部分が弱く脆くなっていたので→この部分に穴があいて胆汁がお腹の中に漏れ出した→膿がたまり、熱が出て痛みがきた→病院にかけこんできた・・・というように謎解きができたわけです。この方は元気で退院していきました。

第2のコースは胆石膵炎で、前回第17回の冒頭に代表例を挙げましたし、次回第19回でも取り上げます。

第3のコースは胆道系の結石+急性炎症でこのあたりがドロドロになっていると、稀に膵胆道癌の合併を見落とすことがある、という話です。
これまで、このコースに入ってしまった人々を数名みてきましたが、特に胆石+急性胆のう炎に実は胆のう癌が合併していた人、胆石+急性胆管炎に実は膵癌が合併していた人、肝内結石+肝膿瘍に実は肝内胆管癌が合併していた人・・・などがいました。

たいがい糖尿持ちです。糖尿がある→ばい菌に弱い→炎症が起きる→病変部の形状が修飾される→併存していた癌の影が見えにくくなる→癌の合併を見落とす→不充分な治療に終わる→癌が再発する→早死にする、というパターンです。

外科にとって “肥満と同様に糖尿は罪” です。この件に属する実例は、次回第19回の上級者コースに出てきます。

第4のコースは、瘻孔形成自然治癒のコースと名打ちましたが、この naming は正確ではありませんでした。瘻孔形成はいいのですが、自然治癒はまちがい。炎症を起こした胆道から、十二指腸や大腸に瘻孔=トンネルが生じて、汚いものの排出路ができてしまうため、一見症状が軽くなる、あるいは消失するの意。したがって治ってはいないのです。

60歳男性、魚屋さん、太っており糖尿あり。ある日、お腹がひどく痛んで高い熱が出て入院。白眼が黄色くなっていて、おしっこもしょうゆのように色が濃い。黄疸です。肥満+糖尿+胆のう胆管結石から第1のコースへ入るパターンです。

ところがある日を境に急に症状が落ちついてきました。痛みなし、熱なし、顔色良し、腹が減ったなどと言っている。胃カメラをした際についでに十二指腸をのぞいてみると・・・・・・奇妙な場所から胆汁がトロリトロリと十二指腸内腔に流出してきている。通常、胆汁というのは胆管を通り、膵頭部を貫いて十二指腸乳頭部という決まった場所から十二指腸内腔へ流出するのです。この場所はカメラでみると左奥。

ところがこの60歳男性の場合、カメラアングルの右手前に奇妙な穴があって、ここから胆汁が出てきています。胆のうと十二指腸との間に自然に瘻孔=トンネルが生じ、胆道系の汚い炎症の源が、十二指腸内へ開放されたのです。胆道系の石はゴロゴロ残っているのです。ただ汚い胆汁が排出経路を得て、症状が軽くなっただけなのです。「もう良くなったから退院します。」などと言っている。

症状のひどい胆石症の患者さんを手術していると、たまに奇妙な瘻孔形成のために手術がやりにくいということがあります。この方の手術もかなり大変でしたが、元気で退院しました。

今回は胆石症の中級者コースということで、急性胆のう炎や急性胆管炎をみてきました。糖尿や肥満が、いかに悪さを働くかという点を再度強調しておきたいと思います。普通に生活し、普通に医者の言うことを聞いていれば、ベルトコンベアーに乗った製品の如く、滞りなく流れていったものを、妙に自我意識が強かったり、アチコチ調べまわって心配した揚句に、結局は時間とお金を浪費してしまう方々・・・そういう人々がこのコースに沢山います。

次回19回は、いよいよ胆石症の上級者コースに入ります。さすがにこのコースに入ってくると “命にかかわる” 話がどんどん出てきます。

H16.11.26 中島 公洋


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