中島先生便り
第17回 胆石症

第17回は、胆石症です。
まず始めに胆石でひどい目に遭った患者さんの話をします。ひどい目に遭ったのは、もちろん患者さんですが、担当した私も一週間近く寝る間がなかったので、ひどい目に遭ったと言えるでしょう。食道癌ならイザ知らず、たかが胆石で一週間も寝る間がなかったので、よく覚えています。もう15年くらい前の話です。

65歳女性、肥満体。食後にミゾオチの右側と背中が痛むと訴えて来院しました。超音波検査をすると、案の定、胆石症でした。コロッとした1個の大きな石ではなく、径3〜5mmの小さな石が10個以上、胆のう内にザクザクたまっているという状況。胆石があっても症状のない人は結構いますが、この方の場合は、痛みもあり、手術した方がいいですよとすすめたのですが、手術は恐いと言って、その後外来に来なくなってしまいました。

このようなことはよくあることで、私もあまり気にしていなかったのですが、半年後、彼女が救急車で搬入されてきました。ひどい急性膵炎です。激しい腹痛、腹満、呼吸困難があり、ICUに搬入。気管内挿管して人工呼吸器につなぎ、眠り薬で眠らせて、お腹の左右に人差指ほどの太さの管を2本入れます。右の管からお腹の中に薬剤をとかしこんだ生理食塩水を2Lほど注入、すると張ったお腹がますますパンパンになる。この状態を2時間つづけ、左の管を開放して、薬液+腹水を排出する。この操作を2時間毎にくり返す。

要するに、内なる大ヤケド=internal burn=急性膵炎に対して、お腹の中を洗っている訳です。こちらは寝る間がない。3〜4日もやると、少しずつおちついてきて、呼吸不全、腎不全から脱出する、ヤレヤレと思っていると、今度は39度を越える熱がバンバン出る。火ぶくれがおさまって膵臓に袋をつくり、この中に膿がたまり始めているのです。袋の完成を待って、超音波検査をしながら細い管をこの袋に刺し、管の先端を袋の中に留置する、管から膿がドドッと出てきて、やっと発熱がおさまる。

こんなこと=急性膵炎になったのは、胆石を放っておいたからです。この患者さんは、急性膵炎の治療に1ヶ月ほどかかった後に、おちついてから胆石の手術をして、最終的には元気に退院しました。

肝臓でつくられた胆汁という消化液は、胆管を通って十二指腸に流れ出すのですが、その途中に胆のうという袋がくっついており、この袋に石ができたのが胆石です。石が袋の中にとどまっていれば、せいぜい痛み発作がくる程度でたいしたことにはなりませんが、石のかけらが胆管にころがり落ちると、高い熱が出たり、下手をすると黄疸が出ます。急性胆管炎です。

しかし、これもまだ良いほう。第10回にも述べましたが、胆管は、わざわざ膵臓の頭部を貫通して十二指腸へつながり、この流出部において、わざわざ膵管と合流して十二指腸へ出ていきます。何故こんなバカな造りになっているのか私も知りませんが、とにかく皆そうなっているのです。

胆管へ落ち込んだ石のかけらが、この胆管・膵管合流部にはまりこむと大変。急性膵炎という命にかかわる病態へ陥ります。この65歳女性が元気になって退院するとき、私にしみじみ言いました。「半年前、先生が手術しろと言ったとき、恐がらずにやっておけば、こんなことにはならなかったのに・・・。」 よくよく話を聞いてみると、半年前の初診時に、私から手術をすすめられたあと、家に帰って近所の人と茶飲み話をしていたら、“念力で石をすいだす祈祷師がいる” という話題になったそうです。それで少しお金はかかるけど、その祈祷師さんに加持祈祷をしてもらったそうです。

それで治ったと思っていたところが、今回の急性膵炎。ふつうに胆石の手術を受けるのに比べて、お金も、時間も、痛みも、お腹の傷も5倍以上かかってしまいました。下手をしたら命がなくなっていたと思います。第12回に話した人と同じようなことになってしまいました。

胆石を手術するかしないか、それは患者さんの自由意志であって、医者の方から強制するわけにはいかない。ここらへんがむつかしいところです。

今回は、胆石症の話ですが

      1. 胆のうの生理と解剖
      2. いろいろな胆石
      3. 胆石の症状
      4. 無症状の胆石をどうするか
      5. 腹腔鏡による胆摘
      6. 急性胆のう炎
      7. 急性胆管炎
      8. 胆石膵炎
      9. 肝内結石
      10. 胆石と胆のう癌

について、話していきます。1.2.3.4.5は初級者コース、6.7が中級者コース8.9.10が上級者コースです。話が多岐にわたるため、今回第17回は、初級者コースに絞って話します。私の記述は、医学的にみて厳密性を欠き、不正確な部分もあり、同業者から見れば “なんだあれは” と批判されるかもしれませんが、“素人の方々からみたわかりやすさ、おもしろさ” を優先しようと考えています。

1.胆のうの生理と解剖

日立のCMで ♪この木 なんの木 気になる木♪ というのがありますが、皆さんはまず、あの木を想像してみて下さい。

biliary tree=胆道の木 という言葉があります。枝や葉が生い茂っているところが肝臓です。幹が胆管で、根元の部分が十二指腸への流出部です。肝臓でつくられた胆汁という消化液が、このルートをたどって、十二指腸へと流れていきます。幹の途中に大きな袋がくっついている。これが胆のう。樹木の形としては不恰好となりますね。こんな袋はない方が biliary tree は美しい。

もしも人間に胆のうがなかったとしたら・・・demerit もありますが、merit の方が大きいと思います。私の認識は、“胆のう=単なる病気生産工場”。小川にきれいな水がサラサラ流れていて、その脇に、小川と通じる、ため池があるとしたら・・・そのため池には、木の葉がたまったり、ヘドロが堆積したりして、汚くなりますね。胆石症とは、まさにそういう状態なのです。

胆のうは、いったい何のためにあるのでしょうか?油物やお酒が十二指腸を通過する際に、十二指腸の壁からある種のホルモンが血液中に放出され、このホルモンの刺激によって、胆のうという袋がググッと収縮し、袋の中にたまっていた胆汁が胆管から十二指腸へおし出される。これが消化をたすけるという段取りになっています。

しかし、たとえ胆のうがなくても、胆汁はダラダラと一定のスピードで十二指腸へ出ていくわけであり、それでいっこうにかまわない。胆摘予定の患者さんが、“胆のうがなくなったら、今後の生活になにか不都合が生じるのではないですか?” とよく尋ねてきます。答えはNo。盲腸と同じ。何の不都合もありません。

第1回 胃切除第2回 胃全摘 の項でも述べましたが、胃の手術をする際、私は原則として、胆のうをいっしょにとります。第15回 食道切除再建の項では、触れませんでしたが、食道のときも胆のうをいっしょにとるようにしています。胃や食道や今後いつか話すであろう門脈圧亢進症の手術の際に、必ず胆のうをいっしょにとるようつとめています。

他院で胃の手術をうけたあと、数年して胆石が生じ苦しんだ人々を私はたくさんみてきました。食道切除再建や門脈圧亢進症手術をやったあとの急性胆のう炎で苦い思いをしたことも一度や二度ではありません。くり返しになりますが、“胆のう=単なる病気生産工場” です。

2.いろいろな胆石

胆摘して、胆のうを開いてみると、いろいろな大きさ、色、硬さの石に出会います。大きなウメボシ〜ダイズ〜アズキ〜砂粒と大きさはさまざま。色も黒〜褐色〜うす茶〜白といろいろ。硬さもかたくて割れないものから、粘土のようにやわらかいものまであります。胆石の成分が、人によって異なるからです。宝石のようにきれいなものもあります。うまくカッティングすればペンダントになりそうです。逆に気色悪いものもあります。気色悪いというフレーズで思い出した症例があるので、お話しましょう。

10年くらい前の話。60歳台の女性、胆石症の術前診断でしたが、肝臓に癌ではない小さなできものがたくさんある。何なのか不明。とりあえず胆摘して、胆のうを開いてみると石がオタマジャクシのように動いている!エイリアン?答えは肝蛭。かんてつと読みます。動物に寄生するヒルの仲間で、ごく稀に人間にも寄生するそうです。胆石と思っていたのは、実は肝蛭の成虫で、肝臓に多発する小さなできものは、肝蛭の卵の周囲に組織反応が生じた結果であると判明しました。よく効くのみぐすりがあり、これをのませると、スッとよくなりました。

これは全く奇妙な経験でした。あんまり珍しいので、若い先生に症例報告を書いてもらいました。ちなみに膵蛭というのもあります。私の先輩の担当患者でしたが、画像上、膵癌と診断して、膵切除をし、切除標本を開いてみたところ、癌でなくて虫だったのです。これも眼の玉が飛び出る程びっくりしました。でも患者さんは大喜びです。癌だと思っていたのに癌じゃなかったのですから。話がかなり飛んでしまいましたね。元に戻りましょう。

3.胆石の症状

よく肥った中年の女性が、ちょっとお酒を飲んだり、油物を食べたあとに、みぞおちから右上腹部にかけて痛んだり、吐き気がきたりした場合は、十中八九、胆石症と思ってまちがいないでしょう。その他には、右の腰〜背部が痛んだり、右の首筋が凝ったりする場合もあります。朝ごはんを抜いて医者に行き、超音波検査をしてもらえば、一発で診断がつきます。無症状ならともかく、症状がありますから、医者は手術を薦めるでしょう。

仕事やら家のことやらで忙しいあなたは悩みますね。入院〜手術〜退院まで1週間で済みますが、お金はいくらくらいかかるんだろうとか、もし手術が失敗したらとか、飼っている犬のごはんはどうするのとか、不安は尽きませんね。その気持ちよくわかります。

なんとか手術以外の方法はないものかと考えますね。新聞や週刊誌に石を溶かして流す、お茶の本の宣伝広告がよく出ています。飲んでみるのも良いでしょう。でも徒労に終わるでしょう。内科の先生なら “胆汁がサラサラ流れて、石を溶かすのみぐすり” を処方してくれるかもしれません。試してみるのもよいでしょう。でも1年間飲み続けて、何も変わらないでしょう。超音波をあてて石を砕く方法なんていうのも昔ありました。

私も50例ほどやってみたことがあるのですが、結論から言うと “ナンセンス”。冒頭でお話ししたように、祈祷師さんに石をすい出してもらうというのもやめておいた方がよいでしょう。やはり手術しかないのか?それに対する私の答えは、「手術が最も良い方法です。でも・・・。」 この、でも・・・のあとが大切。どうしても手術がいやな方のために、2つの方法を伝授しましょう。この2つの方法を実行することにより、胆石をなくすことはできませんが、胆石による症状をなくすことができるでしょう。

第1に、酒は一滴もダメ、油物も一切ダメ。前述のように酒や油物が十二指腸を通る時に胆のうが縮もうとしますが、このとき石が胆のうの出口にはさまって、縮みたいのに縮むことができず、胆のうの内圧が上がる、すると痛むというしかけです。

第2に便秘しないよう毎朝の快便を心がける。薬をつかってもよいでしょう。とにかく便通に気を配って下さい。宿便→消化管の内圧が高い→この内圧が胆道系にも波及→胆のうの内圧も上がりやすい→痛みやすいというしかけです。

どうですか?実行できそうですか?結構辛そうでしょう?ここまで話すと、「じゃあ先生、切って下さい。一生食べたいものをがまんしつづけるなんてできない。スッキリ切ってもらって、食べたいものを食べ、飲みたいものを飲んだ方が人生楽しい。」と言ってくる患者さんが多いです。私はそれで良いと思います。症状のある胆石症は、妙なことになる前にサッサと切って、オサラバした方が得策だと思います。

4.無症状の胆石をどうするか

無症状の胆石をどうするか?症状があるなら切れば良いのですが、全くなんともないのに検診で偶然胆石症と言われたあなた、いったいどうすればよいのでしょうか。

私からのアドバイスは、「しばらく放っておいて様子をみたらどうですか。ただし・・・。」 この、ただし・・・のあとが大切。60歳を越えた女性は別。胆道系の癌は総じて男の方が多いのですが、何故か胆のう癌だけは女に多い。10年も20年も前から胆石があるのに、あまり症状もなくて、放っておいて60歳を越えてしまった女の人、たとえ症状がなくても切った方が良いですよ、と私は言いたい。この件に関しては、上級者コース「10.胆石と胆のう癌」のところで実例をあげて説明しましょう。

癌にならなくても、今無症状の胆石が、明日あばれて痛むかもしれないという不安があるでしょう。全くそのとおりで、そのような可能性の高さを統計学的に強調し、無症状の胆石症といえども切るべきだと主張する論文もあります。この点に関する私の意見は、「たかが胆石で、そこまで大上段にふりかぶる必要はない。」というものです。患者さんに時間があって、やる気になっているのなら、医者の側としても断わる理由なし、という程度の認識で充分でしょう。

この他に、無症状の胆石に対して我々外科医が手を下すケースとしては、C型肝炎+胆石症の患者さんに、インターフェロン治療をやりたいのだが、ついては胆石が邪魔なのであらかじめ取ってくれませんか、という内科医からの依頼があります。こちらとしては、断わる理由もなく、ハイソウデスカといった感じでひきうけます。ついでに肝生検などして肝組織をチョコッと取ってきたりすると、内科の先生も喜びます。インターフェロン治療の大切な指標になるからです。

5.腹腔鏡による胆摘

腹腔鏡による胆摘。本当に良い方法ができたものです。
小さな傷で手術が終わり、術後の回復も早い。外来で全ての検査を済ませておき、手術の朝入院させて、昼頃手術をやって、夕方家に帰した症例が2例ありましたが、こちらとしてもあまり気持ちのよいものではありません。

私がよくやっていたのは、大きな手術の邪魔にならぬよう、胆石の患者さんは、木曜日入院、金曜日手術、月曜日退院、金曜日外来で抜糸、それで全て終了という手法でした。一応、全身麻酔の手術ですし、数日間は入院させておくべきと思います。Day Surgery=日帰り手術などと言って、手術の当日や翌日に患者を退院させ、さもそれがスゴイことのように宣伝するむきもありますが、力点の置き方を誤っていると思います。

人間はブロイラーではない。私は術者として、腹腔鏡による胆摘を100例以上やったと思いますが、1例1例、微妙な手技上の問題点があったし、術後もちょっとしたトラブルをいろいろと見てきました。このような患者さんを手術当日や手術翌日に退院させるのには抵抗を感じます。私が手がけた腹腔鏡胆摘100例は、幸い今のところ no trouble ですが、この間に見てきた trouble 症例の話をしましょう。

48歳女性、胆石症。若い先生が腹腔鏡で胆摘しました。3日後に退院し、その後2週間して腹痛で再入院。胆汁がお腹の中にたまっており、開腹して調べたところ、ルシュカ管という胆道の奇形があり、このために胆汁が漏れたものと考えられました。この再手術は私がやりました。経過良好で退院しましたが、こんな症例には、当たりたくないものです。しかし、やってみなければわからない。地雷の埋まった原っぱを行くような感じです。

55歳女性、胆石症。他の病院で腹腔鏡胆摘を受けたが、その術中に総胆管というところを傷付けたため、その場で開腹し、総胆管空腸吻合という術式を行なって終了。患者は目が覚めてビックリしたことでしょう。小さな傷で済むはずが、ガバッと切られている。まあまあ、それでも胆石の痛みから解放されたわけだから・・・と思って退院したら、今度は毎週毎週高熱が出る。総胆管空腸吻合のやり方がまずいために、度々逆流性胆管炎をおこして熱が出るのです。

この方が私の外来にやってきて、自身の不運をなげくのです。全くお気の毒です。入院させて、いろいろ検査しましたが、やはり初診時の判断にまちがいありません。私の手でもう一度手術をしようかとも思いましたが、とりあえず生活上の注意を与え、薬を処方して様子をみたところ、まずまずのようだったので、そのままズルズルきています。今でも2〜3ヶ月に1回、ふるえを伴う高熱が突然出るそうです。いつか手術をやる日がくるかもしれません。

60歳台男性、胆石症。もう15年程も前の話。腹腔鏡を用いた胆摘の、県内で第1例目ということでテレビや新聞の取材もやってきました。先輩の先生がやりましたが、手術をやったその晩に術後出血が起き、開腹して止血しました。その頃は腹腔鏡手術が出始めた頃で、患者には術前に充分説明していたので、裁判沙汰にはなりませんでしたが、退院する時、彼はプリプリ怒っていたのを覚えています。

50歳台肥満女性、胆石症。私の同僚が腹腔鏡で胆摘しました。見事な手術で、技術的には全く問題なし。手術翌日の朝、彼女がトイレにいこうとベットから降りた途端、急に胸が痛く、息苦しくなりました。深部静脈血栓症。肥った人が一晩動かずにじっと横になっていたために、足の静脈内に血の塊ができ、患者が動いた瞬間にこの塊が肺へ流れていって、肺の血管につまってしまったのです。

大きな病院で年に1〜2回あります。必ず肥った人で、女性が多いです。この方は、治療が奏効して一命をとりとめましたが、下手をすると死亡します。以前私が勤めていた大きな病院で、統計をとったことがあるのですが、このような事案は、3000例の胸腹部外科手術に対して7件発生していました。7件全例救命されたのは、お見事でしたが、7件中6件が肥った中高年女性であり、“肥満は罪” という認識を強く持ちました。

以上、腹腔鏡胆摘の影に入ってしまった4例を紹介しました。
1例目は、胆道の奇形に起因する胆汁漏に対して開腹処置した症例、
2例目は、術中胆道損傷に対する開腹処置が拙劣であった症例、
3例目は、術後出血の開腹止血症例、
4例目は、術後の肺塞栓に対する救命例。たかが腹腔鏡胆摘といえども、たくさんやっているといろんなことがあるものです。

腹腔鏡胆摘の際、私が心がけていることは2つ。
第1は、必ず術中に胆道造影をやって、自分がやったことの正しさをその場で確認すること。第2は、癒着が予想されるひどい胆石に対しては、はじめから開腹してやり、腹腔鏡にこだわって無理しないこと。この2つの点が trouble を避ける最も大切なことだと思っています。

最後にちょっとだけ自慢話を。腹腔鏡で胆摘し、胆道造影もちゃんとやった手術における私自身の最短手術時間は37分で、以前勤めていた大きな病院での最短記録となっており、いまだ破られていないそうです。

今回 第17回は、胆石症の初級者コース1.2.3.4.5についてよもやま話をしました。次回 第18回は、中級者コース6.急性胆のう炎、7.急性胆管炎です。

H16.10.21 中島 公洋


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