第3回は、PEGです。Percutaneous
Endoscopic Gastrostomyの略です。
Percutaneousは、経皮的の意。Endoscopicは、内視鏡的の意。Gastrostomyは、胃瘻の意味です。胃瘻とは、胃の前壁に穴をあけてチューブをさしこみ、口からものを食べることができない人のために、流動食を直接胃に流しこもうというしかけです。胃瘻をつくる際、全身麻酔をしてお腹をあけてやるのでは芸がないので、胃カメラの最中に局所麻酔でパパッと胃瘻をつくってしまおうというのがPEGなのです。まるで魔法のような感じですが、実際5分もかかりません。
チューブの太さは女性の小指の太さくらいでしょうか。よい方法ができたものです。老人施設などを訪ねてみるとよくわかるように、脳血管障害で寝たきりとなり、ものをのみこむ力もなくなって鼻から胃へチューブが挿入されていたり、あるいはチューブは入っていなくても、職員の方が大変な時間をかけてゆっくりゆっくりスプーンで食べさせているようなお年寄りをよく見かけます。
鼻からチューブが入っていると見た目もよくないし、のどにいつも違和感があって痰がたまりやすいものです。また、チューブは入っていなくてもゆっくりゆっくりスプーンで食べさせてもらっているお年よりは、のどの働きが悪いため食べ物を誤って気管の方へのみこんでしまう、せきこむ、介助の人があわてて背中をさする、というような光景がよく見受けられます。
このような方々は肺炎になり、高熱を出して、病院へ担ぎ込まれます。お決まりのパターンといっていいでしょう。たべものにしてもチューブにしても、のどを通ることがあらゆるトラブルの引き金になるのですから、そういうことをすべてやめるとすれば、たとえば点滴をすればいいじゃないか、という意見もあるでしょう。でも手や足の血管に点滴されるのは痛そうでイヤですよね?手足の運動のじゃまになるし、2〜3日すると点滴が漏れて刺し替えなければならないのもつらいです。そうこうするうちに手足の血管がつぶれてしまって看護婦さんが「先生、○○さんは、もう点滴する血管がありません。」と言ってきます。すると医者の側としては、首や肩や股の太い静脈に20〜30cmのやわらかい点滴チューブを挿入固定して、一旦は患者さんも看護婦さんも点滴の苦労から解放されるのです。ところが3〜4週間もすると点滴のチューブが原因となって高熱が出たり、2〜3ヶ月もすると体の栄養や水分や塩分のバランスが微妙にずれてきて、いろいろな問題を生じてきます。
ひとことで言うと“点滴で栄養をとるということは不自然”なのです。栄養や水分や塩分は、腸で吸収されてはじめて自然な形で体の一部となり抵抗力もつくのです。大切なことは“腸を使って栄養を吸収すること”なのです。PEGを造設するとチューブや食べ物がのどを通過しないので肺炎のリスクが減り、点滴の煩わしさからも解放され、何よりも腸を使って栄養を吸収でき、風呂にザブンと入っても何ら問題なく、介助者もグンと楽になるでしょう。
以上のような利点の多いPEGは、近年爆発的に流行しており、摂食障害の高齢者を中心として特殊な病態の小児〜若年者にも行われております。当院でもこの半年間に16例ほど行われており、とくにトラブルもなく経過しています。
いいことずくめのPEGですが、私がこれまで見てきたPEGのトラブル症例をご紹介しましょう。
(1)私が以前にいた国立病院での話です。78歳女性、脳血管障害後の摂食障害。
脳外科の病院からPEGを依頼され、1泊2日入院予定でPEGした方。PEG造設した晩に患者がPEGの管を自分で引き抜いてしまったのです。胃にあいた穴から胃液がお腹の中に流れ出すわけですから、このまま放っておけば腹膜炎になるのは、時間の問題です。
当時の外科部長があわてて全身麻酔下に、腹腔鏡をつかってPEGの管を元どおりに入れ直したのはお見事でした。高齢者の手足をベッドにしばりつけることが問題となることがありますが、手術や処置の後に抜かれては困る管が存在する場合は、ケースによってはやむをえないこともあります。
(2)PEGの管を入れたはいいが、流動食を入れ始めると吐くという方がごくたまにいらっしゃいます。原因は主に2つ。第一は、胃の出口や十二指腸に潰瘍や癌があって通過が悪い場合。第二は、食道と胃のつなぎ目にある逆流防止弁が年のせいでユルユルになっており、胃に入ったものが簡単に食道へ逆流してしまう場合。2つの場合、いずれも手術によって問題解決することが可能ですが、たいてい高齢のため全身状態がわるくて手術に至らないことが多いです。
仕方がないので、流動食を流し込むスピードを遅くする、ねそべった状態でなくて、座らせた状態で流動食を流す。PEGの管の中に、さらに細い管を入れ、胃〜十二指腸を越えて、その先まで細い管を入れ込むなどの工夫が重ねられています。当院でも最近、同様の症例が発生しました。82歳女性、PEGを使いはじめて半年してから、吐くというので調べてみると十二指腸潰瘍でした。しばらく潰瘍の治療をした後、再び通過がよくなったので、今は順調にPEGを使用しています。
(3)PEGの手技そのものには全く問題ないのですが、高齢で全身状態が悪すぎて、PEGうんぬんのレベルをはるかに越えてしまっている方々がいます。PEGして栄養ルート確保できたとしても、その他のいろいろな問題のため、結局有効な延命効果が得られない場合も多々あります。これからPEGをやろうという患者さんを我々が初診する場合、局所的・手技的な事柄についていろいろ言うことはまずありません。大切なことは、全身状態についての判断であって“PEGをすることによって、この患者さんに本当にメリットがあるのか?”という判断です。
今後、在宅で介護されるPEGの高齢者がどんどん増えてくるでしょう。慣れればよい方法なので、当院外来にでも気軽に相談にみえて下さい。患者さん+家で介護しているあなた+介護施設職員の方の3人いっしょに来ていただくと話が早いです。
今回のテーマは、PEGということで第一回、第二回のような“癌”の重苦しさがなく、スラスラと書けました。次回は、第4回 結腸切除になりますが、再び癌の話です。大腸癌の話です。お話することが山ほどあって何から話そうか困るほどです。
H16.3.31 中島 公洋
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