中島先生便り

第21回 門脈圧亢進症

第21回は門脈圧亢進症です。門脈圧亢進と言われても皆さん何のことやらピンとこないでしょう。この言葉をものすごく乱暴に解釈すると「肝硬変で肝臓が硬くなるため、消化管から栄養を集めて肝臓へ送り込む血管=門脈が肝臓の入口で “ダムのせき止め” に会い、門脈の内圧がupし、門脈の支流=食道胃静脈瘤が破れて出血し、吐血・下血が起こる」ということになります。

門脈圧亢進というのは病気の名前ではなく、“病態の名前” です。これはどういうことかというと・・・たとえば嫁姑大戦争という病態があるとして(笑)その具体的な原因としては、嫁の味付けが濃すぎる、嫁が家の中を片ずけない、姑が息子=夫の肩をもつ、姑が孫を甘やかせすぎる、などいろいろとあるわけです。

その結果として生ずる現象は、たとえば夕食のおかずが一品減る、亭主の小遣いが半分になる、といった軽微なものから、別居・離婚などという重大なものまで、これまたいろいろとあるわけです。つまり、「色々な原因→ひとつの病態→いろいろな結果」という図式があり、この原因と結果のところには具体的な名前が付いていて、これらは病名なのです。

しかしまん中の収束点である “ひとつの病態” という地点に関しては病名をつけるわけにはいかず、“門脈圧亢進症” という小難しい病態名をつけているわけです。

門脈圧亢進という病態へ収束してくる原因としては、肝臓が硬くなる肝硬変以外にも、門脈の内腔にある種の寄生虫が生息・成長して門脈の流れをわるくする病気、生まれつき門脈が細くて流れが悪い病気、デベソからばい菌が入って門脈が炎症をおこし流れがわるくなる病気、癌が肝臓の入り口付近にできて門脈の流れをせき止めてしまう病気、門脈はふつうに流れていたのにここへ流入する血液の量が増えすぎた結果として門脈の内圧が高くなってしまう病気、肝臓の血液流出路に障害が起きてその圧が流入路=門脈へ波及してしまう病気、などなど本当にさまざまな病気があります。

一方、門脈圧亢進症という病態から各方面へ発散して生ずる結果としては、食道胃静脈瘤、ひどいイボ痔、脾腫、血球減少、肝性腹水、腎症、肝性脳症、など、これまたいろいろなものがあります。

門脈の支流が発達してくる結果として食道や胃、稀に十二指腸や大腸にも静脈のコブができるし、同じ理由でイボ痔もひどくなる。

脾臓は胃の左奥にありますが門脈を介して肝臓とつながっているため、門脈圧が高くなれば脾臓が腫れてくる。すると、流血中の血球成分=白血球+赤血球+血小板が脾臓にトラップされてしまい流血中の血球成分が減る。白血球が減って、ばい菌に対する抵抗力が弱くなりすぐ風邪をひく、赤血球が減って貧血となり、疲れやすく立ちくらみがする、血小板が減って血が止まりにくくなり傷が治りにくかったり、朝、顔を洗っているときに鼻血が出て止まらない、などということが起きます。

門脈の内圧が高いと、門脈内を流れる血液の液性成分が腹腔へしみ出して腹水となり、腹が張る。すると全身をめぐる血液の volume が減るので尿量が減ってくる。慢性の腎不全に似たような状態に陥ります。“肝腎かなめ” という言葉は肝臓と腎臓が大切な臓器であるという認識から発生したものですが、同時に肝と腎とは密接に関連した臓器であるという意味合いも含んでいます。

腸で発生した毒素は門脈血流にのって肝へ運ばれて解毒されるのですが、門脈圧が高いと、この毒素は肝へ入れず、支流から全身へ流れ、脳へ到達します。頭がボーとして霧がかかったようになります。この状態は軽い肝性脳症です。このような人々がそこら中で車を運転していますから、恐しいことです。こういうことを言うと医者のくせに優しさが足りないなどとよく人から言われますが現実に、肝性脳症が出たりひっこんだりしている患者が乗用車を運転していて、朝、登校中の小学生の列につっこんで3年生の女の子が亡くなった事故を眼の当たりにすれば、皆さんの認識も変わるでしょう。

この件については話したいことがたくさんありますが、医学的な話からかけ離れてしまうため、門脈圧亢進症の話が終了した後に、回を変えてじっくりと取り組みたいと思います。

さてここまでで病態としての門脈圧亢進症について御理解頂いたと思うので、その最も大きな原因である肝硬変、最も大きな結果である食道胃静脈瘤を軸としてよもやま話をしていきましょう。

話の順番としては

としましょう。話が多岐にわたるため、今回は(1)(2)、次回第22回に(3)、次々回第23回に(4)(5)(6)(7)(8)(9)をやります。

(1)静脈瘤の内視鏡治療

すばらしい方法が確立したものです。私が研修医の頃は、まだこのすばらしい治療が確立していなかったし、私が所属していた大学病院の外科が門脈圧亢進症を専門としていたため、病棟には絶えず吐血患者がいて、血のにおいがしていました。

吐血患者が搬送されてくる→手術に入っていればよいが、そのへんをブラブラしていると即、主治医(笑)→点滴ルートをとる→ついでに採血して貧血の具合を check し、輸血用のクロスマッチテストに回す→鼻の穴から、小指の太さ程のやわらかいチューブを胃の中まで挿入して氷水でジャンジャン洗う→洗い水が、はじめは赤いが次第に透明になってくる→チューブを抜く→胃カメラを挿入して出血点をさぐる・・・ここまでは良いとして、出血点が胃潰瘍や十二指腸潰瘍や稀だが胃癌である場合はなんとなく、ホッとした空気になります・・・しかし静脈瘤破裂とわかると緊張状態が続く→胃カメラを抜いた後とりあえず SBtube という妙な形のチューブを鼻の穴から挿入します→チューブの先端を胃へ進めて、ここで野球ボール大の風船をふくらませてひっぱり胃上部を圧迫→さらにソーセージ型の風船をふくらませて食道を圧迫→患者にアメリカンフットボール用のヘルメットをかぶせて、鼻の穴から出てきたチューブをひっぱりつつ、このヘルメットの鉄の棒にくくりつける。こうして一旦止血を得て時間を稼ぎ、肝機能を評価したり、肝癌がないかどうか調べたり、門脈の血行動態を検査したりします。

しかしその制限時間は24時間、長くても48時間です。48時間を越えて SBtube の圧迫を続けると胃や食道の粘膜が壊死してしまうからです。したがって主治医としては、 SBtube 装着後、一晩〜二晩の間に、静脈瘤破裂の治療方針を決めなければならない。

内視鏡治療でいくか、放射線科的治療でいくか、外科治療でいくかを決めます。言い換えれば、カメラ室で胃カメラをやって治療するか、血管造影室でカテーテル=細い管を使って治療するか、手術室でガバッと開腹して根こそぎ治療するかを決定するわけです。

このうち、最もよい治療は、内視鏡治療です。何と言っても体への負担が小さい。今現在では内視鏡治療も発達して周辺機器やいろいろな小道具も充実してきたので、上述の SBtube を経ることなしに、最初の出血点確認カメラの際に、そのまま治療することもある・・・むしろその方が多いくらいです。

内視鏡治療には、EIS:endoscopic injection sclerotherapy・・・カメラで静脈瘤を見ながら鉗子孔から細い注射針を出して静脈瘤に刺し硬化剤を注入するやり方、と、EVL:endoscopic variceal ligation・・・カメラで静脈瘤を見ながら、静脈瘤に小さな輪ゴムをかけてしばっていくやり方、の2通りがあります。

今はEVLの方が多いようです。EISでは硬化剤を注入するので胸痛や発熱や溶血性のどす黒い尿が出るなんてこともありますが良い治療です。EVLがうまくいくとそういう副作用的症状も出なくて、患者はケロッと立ち直ることが多いです。ここまでは内科Dr.の仕事領域ですが、この時点で止血が完了すれば万々歳です。その内科Dr.の外来で年に2〜3回カメラcheck を受ければよいでしょう。

(2)静脈瘤の放射線科的治療

静脈瘤の位置がむつかしくて、カメラでEISやEVLがやりにくい場合があります。とくに食道から胃に入ってすぐのところにある静脈瘤はカメラで治療しにくいので別の方法はないだろうかということで考え出されたのが、BRTO:balloon-occluded transfemoral obliterationで、これもすばらしい治療です。ここ10年くらいで非常に発達してきました。

放射線科の先生がやります。血管造影室であおむけにねて、右の太もものつけ根の大腿静脈に細い管=カテーテルを挿入し→下大静脈→左腎静脈→左副腎静脈→(※)→後胃静脈→胃上部の静脈瘤へと到達します。カテーテルの先端には穴があいていますが、その少し手前に小さな風船がついていて、この風船をふくらませて穴から薬剤を出して静脈瘤へ注入します。薬剤は、風船のために手前方向へ流出できずに、静脈瘤内へとどまって瘤をかためてしまうというしかけです。

とても良い治療ですが泣きどころもあります。上述の(※)部分が開通していない症例では、カテーテル先端を瘤まで到達させることができないのです。門脈圧亢進のない元気な人では(※)は開通していませんが、いろいろな原因で門脈圧が高くなった患者さんではその圧が、門脈→左胃静脈+脾静脈→食道胃静脈瘤へ達しており、この圧がさらに→後胃静脈→(※)→左副腎静脈→左腎静脈→下大静脈へと逃げていくために、(※)部分が都合良く開通している場合が多いのです。

BRTOは、まさに、この門亢症特有の現象を逆手にとった治療であって、スバラシイの一語に尽きます。ところが原則があれば例外もあるもの。門脈圧は亢進していて食道や胃に静脈瘤が存在しているのに、(※)部分が開通していない人々がいるのです。こういう人々では、カテーテルを瘤内へ進めることができないからBRTOが実施不可能なのです。

時代が進めば技術も進むので、あの手この手を使って、EIS、EVL、BRTOによってなんとか静脈瘤を control できる症例が増えてきました。しかしどうしてもこれらの治療がうまくいかないときは、仕方なく手術です。ここでようやく私共外科医の出番となります。門亢症の手術については次回第22回にじっくりとお話することにして、ここでは、放射線科的治療の番外編とでも言うべき TIPS:trans-internal jugular portosystemic shunt について触れておきましょう。

門亢症とは要するに、肝臓というダムが門脈という渓流をおしとどめているために、渓流地帯が水びたしになっている状態なのでこのダムに風穴をあけて、渓流の水を下流へ放水させてやればよいわけで、TIPSとはまさにそういう治療手技です。

右の首の内頚静脈からカテーテルを入れて→上大静脈→右心房→下大静脈→右あるいは中肝静脈へと進めていきます。下流からダムを見上げている状態。ここからズボッと門脈へ向かって管をつき通して、門脈と肝静脈との間にトンネルをつくってやる。非常にむつかしい手技で放射線科Dr.の中でも特に上手な先生がやります。

TIPSがうまくいくと、門脈系に充満していた血液が、低圧の肝静脈→下大静脈へと返っていくので、食道胃静脈瘤がしぼむ、というしかけです。ところが実際には、静脈瘤がしぼむというよりもむしろ肝性腹水が減るという効果の方が大きいそうです。門脈圧を下げてやるわけですから、門亢症によってもたらされた静脈瘤以外にも、腹水が減少して循環動態が改善して尿量が増え、四肢や顔面の浮腫も改善するのは当然でしょう。ところが良いことばかりではないのです。第1に手技がむつかしく危険を伴なう。第2に腸で発生した毒をふくむ門脈血を、肝臓を通さずに全身へ逃がしてやるわけだから、前述の肝性脳症がひどくなる・・・むつかしいものですね。

今回は具体的な症例を挙げることもなく「いろいろな病気→門脈圧亢進→いろいろな症状」という成り立ちを説明し、いろいろな症状の中でも特に生命に直結している吐血をひきおこす食道胃静脈瘤の内視鏡治療、放射線科治療について、その理屈を述べてまいりました。ここで述べたEIS、EVL、BRTO(およびTIPS)は内科、放射線科の先生方が苦労の末に確立したすばらしい治療です。皆さんの知り合いの中にもこの恩恵を受けた方がいると思います。

ここまで読んできた皆さんも既におわかりのように、結局は “悪い肝臓が全ての原因” なのです。肝移植で肝臓をとりかえれば問題が解決するし、実際そうした方々もいるでしょう。しかし、移植は大変。移植ではない一般外科の静脈瘤治療について次回から述べていきます。その前に私が経験した珍妙な手術症例の話をしておきます。

63歳女性、吐血して病院へかつぎこまれました。
内科の先生がなんとかEISで止血したがriskyな静脈瘤は残存しておりEIS、EVLではこれ以上対処不能ということでBRTOを試みたものの運悪く、(※)領域の開通がわるくて実施不能。手術をしてくれと私のところへお鉢が回ってきました。

手術は滞りなく終了し、さあ最後の止血を確認して閉腹という段階になって血圧が急降下し、全身に紅斑が出現、術野全体からのしみ出すようなジワ〜とした出血が始まりました。外科的に対処できる出血ではなく、そこら中の目に見えない毛細血管からジワ〜と出血しているのです。oozing=ウージングといいます。1時間くらい圧迫していたが止まらず仕方なく閉腹。呼吸状態もどんどん悪くなり人工呼吸器が必要な状態。ICUに入れて集中治療を施こすがおしっこは出ないし、脈は異常に早くて血圧が保てない。お腹の中に入れたドレーンという管からは出血がずっと続いている。八方塞がりとはこのことです。

いったい何が起こっているのか?悪いことだらけの四面楚歌の中で、唯一の救いは患者家族の方々がとりみだすことなく黙って見守っていてくれたこと。おかげで私たちは、妙な方向へ心をくだくことなく、患者の病態解明へ全力を注ぐことができました。

結論から言います。門亢症では脾臓が大きくなり血小板がここに貯めこまれるため流血中の血小板が異常に少なく、出血傾向が出やすい→このため、若い先生が気を効かせて、血小板輸血を準備した→手術は順調に終了したので結果としては不要だったのだが、せっかく準備したし患者のためにもなるし、ということで手術の終わり頃に麻酔の先生が血小板輸血を行なった→ところがこの血小板が実はばい菌に汚染されていた→ばい菌が患者体内に入り、敗血症の状態へ陥った→敗血症の表現型として突然の血圧低下、全身紅斑、乏尿、呼吸不全、出血傾向が起こった・・・。

以上のように理解できたのは、手術の次の日の早朝。患者は相変わらずのアップアップ状態で、若い先生が寝ずの番をしながら、手術中に使用した血小板パックの袋をゴミ箱からさがし出して、血小板液を染色、検鏡し、解明してくれました。

そうと分かればやることは決まっている。第19回で少し触れた急性血液浄化法です。患者の血液を抜き出して浄化カラムを通し、ばい菌をこし取って患者に戻します。あまりに珍しい病態に、麻酔科の教授先生までがわざわざ病室まで来てくれて、NO=一酸化窒素を用いた当時最高の人工呼吸器セッティングをしてくれたのは感激でした。そんなこんなで血圧は安定、紅斑は消失、尿量は確保され、呼吸も安定、出血傾向も消失していきました。

あれから10年近く経っていますが患者さんは元気です。静脈瘤も消失しています。本症例から得られる教訓は「血小板輸血は恐い」です。日本赤十字社が献血車を出して、皆さんの善意あふれる血液をいただいているわけですが、血液は濃厚赤血球、血漿、血小板などの成分に、その場で分けられ、パック詰めされます。これらのうち、濃厚赤血球は冷所、血漿は凍結というふうに保存されるのですが、血小板だけはナマのまま室温におかれ、1〜2日中に使用されてます。血小板は冷凍保存できないのです。

血小板が必要になることはめったにないので、私たち医者が血小板を使いたいときには、朝、日赤にTELするとその日の献血分から血小板をとり出して夕方までには病院へ届くというシステムになっています。ナマは恐い。ナマものは食中毒になるから火を通せとかちゃんと冷蔵庫に入れろとか言われますが、血小板はまさにそのナマものなのです。ナマでないと働きがないのです。

患者が元気になって一段落した頃、当時の外科部長が日赤の担当者を呼んで厳重に抗議していましたが、私は患者が元気になったのでルンルン気分であり、怒る気にもなれませんでした。ただひとつ、私自身の手落ちとして反省しなければならないことは、「血小板輸血を準備するかもしれない若い先生の気持ちをおしはかって “この症例にはそれは必要ないよ” と一言アドバイスしておけばよかった」という点です。血小板輸血は稀とはいえ、重症疾患を扱っていれば時々やることであって、何も特別なことではないし、これまで事故が起こったこともないので「血小板?まあ使いたいなら使えば?」的な軽い考えがあったことは事実です。

今回この症例の話をした理由は何かというと・・・ “通常の胃やら腸やらの手術で血小板を用意する事など皆無、門亢症の手術とは、それだけ特殊かつ重症の手術である” ということを皆さんに認識して頂きたかったからです。

それではいよいよ次回第22回では、(3)静脈瘤の外科治療つまり門脈圧亢進症の手術術式についてじっくり解説していきますが、むつかしくならぬよう、読んでわかりやすくおもしろくをモットーにやっていきます。

H17.2.19 中島 公洋


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