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第5回も結腸切除の続きです。(1〜2は、第4回のページに掲載されています) の順に話していきましょう。 |
| 3.大腸癌の局所再発 |
| このことは重大な2つの問題を含んでいます。局所とは、腸を切ってつないだその吻合部のことで、局所再発とは、その吻合部付近に癌が再発した状態を言います。素人考えでは、癌を取り残したから吻合部局所に癌が再発したのではないかと思われるでしょうが、問題は、そう単純ではありません。 50歳男性、血便で来院し、検査の結果、S状結腸に癌があり、同時に肝臓の右葉に、テニスボール大の転移がありました。S状結腸切除と肝右葉切除が必要ですが、両方一度にやるのは手術が大きすぎるので、はじめにS状結腸切除して、3週くらいして回復してから肝右葉切除をしようということになりました。 まず担当医がS状結腸切除したのですが、縫合不全をおこしました。腸をつないだ部分がきれいにつながらず、つなぎ目から便がお腹の中に漏れて、熱が出たり、お腹が痛んだりするのです。外科の業界ではこのような状態を“漏れる”という意味で“leak”と呼びます。糖尿のある人、肝臓が悪い人、太っている人、ある種のホルモン剤をのんでいる人においては、leakの危険は通常より大きく、仕方のない面もあるのですが、普通どおりにやればleakなどは考えられず、“担当した外科医の腕が悪かった”と言わざるを得ません。 しかし、leak=死とはならないところが大腸外科や胃外科の“甘いところ”であり、ごはんをたべさせず、高カロリーの点滴をして、吻合部近くに手術のときに入れてあったドレーン(ビニール製のやわらかいチューブ)から漏れた便汁をすい出してやり、抗生物質を投与してやれば、次第次第に治っていくのです。 この人も、かなり苦しみましたが、5週で治り、ごはんをたべられるようになりました。当初の予定よりずれこんで7週目に、肝右葉切除を行ないました。この手術は私がやりました。特に問題なく経過し退院しました。 問題はこの後です。数ヶ月して、癌が吻合部局所に再発して糞づまりとなり、再入院したのです。担当医が再開腹するとleakがあった吻合部に再発した癌が塊をつくっており、まわりに腹膜転移も伴なっていて、切除不能だったので、その口側に人工肛門をつくりました。癌はちゃんと切除されているのにleakがあると、その場所に癌の局所再発が生じやすいのだ、ということを私は皆さんに言いたいのです。 外科医の中には、leakがどうした、どうせleakなんか治る、とたかをくくっている人たちがいます。確かに治ります。局所再発の危険が増大しますけどね。切ってつなぐだけの手術、気合を入れて間違いなくやって欲しいものです。 Leakがあると、どうして局所再発がおこりやすいのでしょうか? 大腸という管の中に進行癌があると、癌の塊からはがれおちた癌細胞が、管の中をウロウロしているのでしょう。癌を含めて管を切りとってつないだ時に、つなぎ目の状態がよくない=縫合不全がある=ナマナマしい傷がある、と、その傷の部分に、管の中をうろついていた癌細胞が“生着”するのではないでしょうか。 癌細胞が1個だけウロウロしていても、周辺の治安が良好であれば、リンパ球やらマクロファージといった警官がかけつけてきて、手錠をかけてくれるのだと思います。周辺の治安が悪い=ナマナマしい傷がある=縫合不全がある、と、癌細胞がその場所に生着して、事務所を構え、どんどんはびこって、局所再発の塊をつくるのだと思います。 この患者さんは、腹膜〜骨〜肺転移により、1年後に亡くなりました。縫合不全があってもなくても1年という予後は変わらなかったかもしれない、しかし少なくとも縫合不全がなければQOL=quality of life=生活の質を上げてやることができたと思います。 次は、10年以上前の話ですが、55歳女性、直腸がん。 直腸にも下の方=肛門のすぐ近くで、指診すると癌の塊を触れる 〜 上の方=肛門から離れていて指診しても触れることができない、と、いろいろな場所があります。 直腸以外の大腸=結腸の場合は、腹さえ開ければブラブラしており、いかようにも切除することが可能なので、癌の場所について数pのちがいをグダグダ言うことはないのに対して、直腸だけは数pのちがいが天地の差となります。 この方の場合は、直腸指診により癌の塊を触れました。 触れただけで進行癌ということがわかり“ある術式”が必要と思われました。 “ある術式”とは「腹会陰式直腸切断+側方リンパ節郭清+人工肛門造設」です。簡単に言うと、お腹およびおしりの双方向から直腸をくり抜いてとってしまい、腸の断端を人工肛門として左下腹部に出す、という術式です。手術時間5時間、出血量300mlの中くらいの手術ですが、私はこの手術が嫌いです。危険な手術ではないのですが、視野が良くないので美しさがないのです。 術者の私より患者さんのほうがもっと嫌いでしょう。術後は人工肛門の生活になるのですから。この患者さんも相当に嫌がって、人工肛門をつけるのなら手術を受けないと言い出す始末。 しかし結局、「癌があと5p、上の方にあれば肛門を残して、腸をつなぐことができるが、実際に今ある直腸下部の癌に対しては、この手術を選択するしかない、でないと、とり切れずに局所再発し、1〜2年で死にますよ。」という私の説得に折れ、予定通り手術を受けました。 彼女は今も元気です。 このパターンの医者と患者のせめぎ合いは本当に多いです。医者の言うとおり人工肛門をつけてうまくいった人=A、うまくいかなかった人=B、医者の言うことを聞かず我を張り、腸をつないでもらってうまくいった人=C、うまくいかなかった人=Dとすると、A>C、B<Dです。 以上2人の患者さんを紹介しましたが、この大腸癌局所再発の項で私が言いたかったことの第1は、「leakは局所再発に関係している」、第2は「直腸の下の方の進行癌は無理せずくり抜いてとり、腸をつながずに人工肛門を置いたほうがよい、でないと局所再発の危険が増す」という2点です。 大腸癌の再発様式の中で最も多いのが局所再発です。最近では、手術の前に放射線をかけたり抗癌剤をやったりして、術後の局所再発を減らそうという試みや、何とか人工肛門をつくらず下の方で腸をつなごうとする工夫が進歩しており、minor changeをくり返しておりますが、前述の2点の重要性は今も変わりません。 この項の終わりにもうひとつ骨盤内臓全摘の話をしましょう。 30歳女性、5歳の子供さんが1人居ます。 おしっこに空気が混じる“気尿”という珍しい訴えで受診してきました。おしっこの最中にゴボッゴボッと空気がいっしょに出るというのです。 調べてみると、直腸の上の方に進行癌があり、この癌が直腸の前方にある子宮、さらにその前方のある膀胱へ食いつき、直腸と膀胱が交通して、直腸内のgasが膀胱へ入って、おしっこといっしょにgasが出るという全く奇妙な病態でした。 患者は若い、子供は小さい、直腸癌は進行しており子宮・膀胱へ達している、肝転移なし、肺転移なし、・・・・以上のような条件下に最も適した術式といえば骨盤内臓全摘をおいてありません。 直腸はくり抜いて全部とり、左下腹部に人工肛門をつくる、膀胱は全部とって小腸で代用膀胱をつくって尿管をつなぎ、右下腹部に代用膀胱の出口をつくる、子宮と卵巣は全てとるから当然もう子供は産めない、という大きな手術です。手術時間10時間、出血量2000mlというところです。直腸癌の局所再発を防ぐという意味においては究極の術式でしょう。 手術は非常にうまくいき、経過良好、10年以上経った今も彼女は元気です。子供さんも大きくなったことでしょう。私自身、この方を含めて骨盤内蔵全摘を3例担当しましたが、長生きしたのはこの方だけです。やはり非常に進行した直腸癌を対象としているため、手術そのものがうまくいっても再発により1〜2年しかもたないことが多いようです。 |
| 4.大腸癌の肝転移 |
次は大腸癌の肝転移です。大腸癌切除後の再発形式として最も多いのが局所再発、第2位が肝転移ですが、その差はわずかであり、局所再発と肝転移をコントロールできれば大腸癌は8割方制御できるといっても過言ではないでしょう。 |
| 5.大腸癌の肺・腹膜・骨転移 |
大腸癌の肺転移、腹膜転移、骨転移ですが、一言でいうと、どうにもなりません。 H16.4.26 中島 公洋 |
| 酒井病院 Sakai Hospital |