中島先生便り
第4回 結腸切除

第4回は、結腸切除です。
平たくいうと大腸の切除です。大腸というのは、右の下腹から始まって→右上→左上→左下へと続き、骨盤内に入って最後は、直腸へとつながって肛門から便が出るわけです。右の下腹あたりでは、便はまだ水分が多く、ドロドロとした状態ですが、直腸へ向うにしたがってだんだんと水分が吸収され、固形の便となっていきます。

手はじめにひとつ、興味深いお話をしましょう。
その人は55歳男性、某会社社長。最近ちょっと腹具合が悪く、どうも右の下腹に少しだけ重い感じがあると訴えて受診してきました。外来で検査してみると、右側にある上行結腸というところの癌でした。右側の大腸癌は、便が流動性であるため、糞づまりになることがなく、また肛門から遠いので血便となりにくいため、なかなか患者さんが自覚しにくいものです。

この方の場合も結構な進行癌でしたが、肝転移もなく“右半結腸切除+D
リンパ節郭清”という術式をやれば充分治癒するだろうと考えられました。手術時間は2〜3時間、出血量100ml以下で終わる簡単な手術です。危ないところはどこもありません。

当然手術を薦めました。ところが患者さんは“手術はイヤだ”というのです。曰く、“自分は健康食品の会社を経営しており、この道30年他人に販売するだけではなく、自分の体についてもこれまでずっと管理してきた。そのような自分が癌になるわけはなく、たとえ癌だとしても自分の信ずる健康食品を食べて治したい。”と・・・。唖然としましたが、世の中にはいろいろな人がいるもんだと妙に感心してしまいました。

私共外科医は、物理的な問題を物理的に解決するよう訓練されて育ちます。この患者さんに対しても健康食品では治らない、手術で治さなければ死にますよということを口を酸っぱくして説きましたが、結局手術の同意が得られませんでした。

その後どうなったか知りたいでしょう?5ヵ月後、腸閉塞になって飛び込んできました。癌はどんどん大きくなって、便もガスも通過しなくなり、糞づまりとなって腹が張り、吐くのです。結局、手術をしたのですが、癌は相当に進行しており、再発ということを考えて術後も治療を進めていかないといけないでしょう。

この方とは対照的な患者さんの話をしましょう。
65歳女性。ある日曜日、私が病院の当直をしていた時のこと。その人は、便が少し黒いようだと訴えて外来にきました。Weekdayの午前中に内科の外来に・・・ということばをグッとのみこんで診察しました。直感的に右側の大腸癌とのあたりをつけ、検査日・入院日・手術日・退院日を全部決めて帰しました。

患者さんは、さぞかし面くらったことでしょう。自分は日曜日にちょうど体があいたので軽い気持ちで病院に行ったのにブスッとした医者が出てきて、ちょっと診ただけで癌だろうといわれ、一方的にスケジュールを決められてしまったと。

その患者さんは、まるで工場の製品がベルトコンベアーにのって運ばれる如く、何のトラブルもなく、予定した退院日にキッチリ退院していきました。退院するその日、その患者さんがわざわざ私の外来診察室へ訪ねてきて言いました。「いろいろと不安なことが多かったのですが、先生の言うとおりにして大正解でした。」と私の手を取って拝むのです。

あれから3年。その方は、癌の再発もなく、元気です。最近、頭のいい人がインフォームドコンセントだのセカンドオピニオンだのいろいろとむつかしいことをいいます。確かに大切なこととは思いますが、迷わずベルトコンベアーに乗ってみるのもいいことが多いですよと私は皆さんに伝えたいのです。自我意識が強く、6/10や7/10では納得せず、10/10でないと気が済まない、ちょっとしたことで落ち込んで泣いたり、怒ったりとクドクド言う人、こんな人は、病気が治りにくいようです。このことは不思議なくらいよく当たります。ヨタ話が過ぎました。本題に戻りましょう。

右下腹に小腸の最後=回腸があって、これが大腸の始まり=盲腸につながっています。ここから右上へ向かって上行結腸、右上から左上へ向かって横行結腸、左上から左下へ向かって下行結腸、左下から骨盤内に向かってS状結腸、これが直腸〜肛門へとつながっています。大腸の切除術式にもいろいろあって、回盲部切除、右半結腸切除、横行結腸切除、左半結腸切除、S状結腸切除、高位前方直腸切除、低位前方直腸切除、直腸切断などの術式があります。何度も言うようですが、胃や腸はお腹の中の表層臓器であって、肝臓や膵臓の手術に比べれば、難易度のランクが低く、手術は難しくありません。
少々乱暴な言い方をすれば、切ってつなぐだけです。このような手術においては、手術局所の解剖学的な問題よりも同時に存在する全身的な問題、たとえば肥満・糖尿病・高齢・心臓病などの方が、主治医にとってストレスなのです。

さて、今回のテーマである結腸切除については、

  1. 大腸癌以外の結腸切除
  2. 人工肛門
  3. 大腸癌局所再発
  4. 肝転移
  5. 肺・骨・腹膜転移

   の話をしましょう。後半にいく程生命に直結する重苦しい話になります。
   (3〜5は、第5回のページに掲載されています)

1.大腸癌以外の結腸切除
80歳・女性・ヤセ型、もともとお元気な方。
元来便秘気味でしたが、ある日の朝、トイレに座って、りきんでいたところ突然左下腹に激痛が走り、だんだんお腹全体に拡がって、救急車で搬入されました。診察してみると原因不明だがとにかく腹膜炎です。
直ちに全身麻酔をかけて開腹しました。S状結腸に憩室が密生して全体が硬くなっており、一部が破れて便がお腹の中に漏れ出していました。

憩室とは何か?鬼に金棒という言葉がありますが、鬼が持っている金棒を想像してみて下さい。金棒が腸であり、金棒についているイボイボが憩室です。ずっと便秘気味の人は内圧が高いですから、その圧のためにイボイボがとび出して憩室となり、一見鬼の金棒のイボイボのようになってしまうのです。

ただ単にイボイボが飛び出しているだけなら、どうということはないのですが、イボイボ=憩室が炎症をくり返すため、そのあたり一帯の腸がかたく狭くなり、便秘がますますひどくなり、痛んだり、出血したり、たまにこの患者さんのように憩室がやぶれて腹膜炎になるのです。やぶれた憩室をふくむS状結腸を切除し、元気に退院されました。

次は、宿便傾向のある70歳・肥満女性。
ある日曜日の朝、当番の私が病院へ来てみるとその患者さんが外来処置室のベットの上でウンウンうなっていました。前の晩に当直だった小児科の先生と内科の先生が、どうしたものかと腕組みをしていました。浣腸3回やったけど出ないというのです。

診察してみると腹膜炎です。直ちに全身麻酔をかけて開腹しました。S状結腸に便が岩のようにかたまって動かず、たたいてみるとまるで金属をたたくようなカンカンという音がします。一部がやぶれて腹膜炎になっていました。

S状結腸を切除して元気に退院されました。癌も捻転も憩室もなく単なる宿便でS状結腸がやぶれたというめずらしい症例でした。

癌以外で大腸に外科的な問題が生ずるのは、この他に小児の腸重積、比較的若い人の潰瘍性大腸炎、珍しいところでは、直腸内異物というのがありました。
世の中には、理解不能の趣味をお持ちの方がいるようで、その夜当直していた私は、世にも奇妙な光景をまのあたりにしました。

気の弱そうな30歳・男性。診察室に入ってきたその患者さんは、下腹をおさえてバツの悪そうな顔をしていました。肛門からバイブレーターを挿入してとれなくなったらしいのです。バイブレーターはスイッチが入ったままになっているため、自発的にラセン運動をしており、下腹部がブーンと鳴ってまるでエイリアンでもいるかのようにうごめいていたのです。

開腹することなく、なんとか肛門からバイブレーターを取り出すことができて私も患者さんもホッとしたものです。事がうまく運んだ後、共にバイブレーターと戦った戦友のような気分が私と彼との間に生じ「先生本当にありがとうございました・・・」「もう二度とこんなことで病院に来ないで下さいよ・・・」という無言の会話が交わされたような気がしました。そのあと彼は、そのバイブレーターをよく洗って持って帰りましたが・・・(笑)。
2.人工肛門

人工肛門というと、何やら汚いイメージがあって皆さん忌み嫌うのですが、“そんなことは断じてない、良い方法なのだ”ということをまず強調しておきます。

55歳女性・美容師。
女手ひとつで店を切り盛りし、強くたくましく生きてきた方です。便秘気味だったが、仕事にかまけてほっておいたらある日突然、左下腹に激痛が走り、病院にかけ込みました。腹膜炎との診断で緊急開腹手術が行われました。S状結腸に癌があり、この部分がやぶれて便がお腹の中に漏れ出していたのです。

担当医は、S状結腸を切除し、その口側端=下行結腸と肛側端=直腸とをつなぐことなく、肛側端を閉鎖し、口側端を人工肛門として左下腹部に置いたのです。術後数ヶ月してはじめて彼女を外来で見た私は、彼女が人工肛門をつけられたことへの不満を涙ながらに訴えてくるのをじっと聞いていました。

結論から申しましょう。癌および破れた部分を含むS状結腸を切除摘出し、そのあとをつながずに人工肛門を置いた担当医の判断は、全く正解でした。

理由は2つ。
第1は、腹膜炎をおこして緊急に開腹しているような状況下で、胃や小腸ならいざ知らず、大腸をつなぐことは縫合不全の危険が大きい。縫合不全となれば大腸の内容物=便がお腹の中に漏れ出して大変なことになります。

第2は、破裂穿孔した穴から癌細胞が腹腔内に遊出したことは充分に予想される→数ヵ月後に腹膜転移が生ずるだろう→腹膜転移巣が骨盤内に塊をつくって直腸を圧迫し、便の通過を妨げることは充分予想される→そのときになって人工肛門を作るより、今つくれば手術は1回で済むから利口→便の通過障害を気にすることなく、本腰を入れて抗癌剤治療ができる。というような理由です。
実際この患者さんは、1年後に腹膜再発し、2年後に亡くなられましたが、最後まで腸閉塞にはならず、食べ物を口から入れることが可能であったことを申し添えます。

この患者さんのように「人工肛門を設置したこと自体」に対する不満は、実は医者の方が正しく患者さんが間違っていることが多いのですが、逆に「設置した人工肛門の調子が悪い」という不満については、100%医者の側の技術的な問題であることが多いです。

たとえば、人工肛門が陥没してしまった、人工肛門から腸が飛び出す、人工肛門のまわりに膿がたまっていつまでも浸出液が出る、人工肛門の付近で便の通過が悪く腸閉塞になった等々の訴えは、多分に技術的な問題です。太っている人、糖尿の人の場合、このようなトラブルが生じやすいのは事実ですが、外科医の側も気を抜かず、丁寧につくる必要があると思います。

人工肛門を設置すると障害者手帳が交付され、医療費の負担が軽くなる決まりになっているのですが、最近お国の方にも余裕がなくなっているため、“きれいにつくられた申し分ない人工肛門”に対しては、お金が出にくい状況になってきているようです。

このことからもわかるように“人工肛門というものは、もはや障害者にはあたらない”という認識が広まってきている感じです。
話が長くなったので、(3)(4)(5)は次回へまわしましょう。

H16.4.9 中島 公洋

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