第1回は、胃切除です。
胃切除は、外科手術の基本中の基本で、手技的にどうこう言うようなことは何もなく、手術時間2時間、出血量100mlといったところでしょうか。胃はおなかの中にあるいろいろな臓器のうちで最も表層にあって開腹するとすぐに目の前にとび出してきます。
回りにあまり大事な血管もないので、気楽といえば語弊がありますが、とても落ちついた気持ちで手術を進めることができます。
このように胃切除の手法そのものには問題がないのですが、それよりも胃切除を受けなければならない患者さんの全身状態が問題となります。
たとえば太っている人。外科医から見ると太っているというのは本当に罪なことです。手術がやりにくくて時間がかかり、出血量が増え、術後もいろいろな合併症を生じやすくて、スッと治るコースに入ってくれません。
欧米では、病的に太った人の胃を切除して、体重を元に戻す治療が多く行われているそうですが、まさに究極のダイエットといえるでしょう。
たしかに胃を切除すると体重が5〜10kg減ります。肝切除や腸切除をしても体重が変わらないのとは好対照です。
以上のように胃切除に関して、私が皆さんに伝えたいことは、“手技そのものには問題がなく、むしろ周辺状況に問題がある” ということです。
周辺状況とは、
- 全身状態・・肥満、糖尿、肝硬変、高齢、心臓や肺の病気、常用薬、etc。
- 癌の進行具合により、胃カメラで切除するのか、腹腔鏡の小創手術でやるか、通常の開腹手術でやるのかといった術前の判断。
- 胃を切除したあと腸とつなぐ訳ですが、そのつなぎ方をどのようにしたら術後の長い一生をより調子よく過ごせるか、といった機能的な問題。
- 胃を切ったあと5年も10年もしてから生じる貧血、骨粗鬆症への投薬と管理といった長期的内科的な問題。
- 胃癌の再発に対する抗癌剤治療は、有効なのか、副作用はないのかといった生命に直結する問題。
1.つい最近、90歳のおじいちゃんがたべたものを吐く、と訴えて当院を受診してきました。調べてみると胃の出口付近に胃癌があって、食物が通過できなくなっていました。何しろ90歳ですからどうしたものか悩みましたが、体型がやせ方だったのでうまくいくだろうと思い、胃切除しました。手術時間2時間 出血量70mlでした。経過は良く、食欲も良好で退院しました。
2.先日大分市内のスーパー銭湯に入り、サウナで汗を流していたところ年配の男性が入ってきました。いろいろ世間話をしていましたが、ふとみるとお腹に小さな傷があるので、どうしたんですか?と尋ねると、腹腔鏡で胃を切ったんですよと笑っていました。早期癌だったそうです。傷が小さくて思いのほか楽だったそうです。このようにいいことも多いのですが、逆に胃カメラや腹腔鏡で小さくやったがために癌が再発したとの話もチラホラ聞くので、術前の判断はなかなかむつかしいものです。しかし、全体としては小創の方向へ向かっています。
3.胃切除をしたあと残胃と腸をつなぐのですが、そのつなぎ方は、いろいろあります。大きく分けて3通りあり、各々にメリット、デメリットがあります。術後の長い一生を考えた時、一番良いのは残胃と十二指腸を直接つなぐ方法ですが、これについてつい最近ちょっと苦い経験がありました。
62歳男性 長いこと胃と十二指腸に良性の潰瘍があり、何度も再然するのでのみぐすりをのませたり、胃カメラをしたりと外来でずっと診ていた方です。ところが今回の胃カメラでいつもの胃潰瘍とは全く別のところに早期胃癌を発見し、潰瘍も含めて胃切除したのです。ところがいざつなぐ段になってみると十二指腸が昔の潰瘍のため変形していて、残胃とつなぐそのつなぎ目がどうしても美しくいかないのです。多少無理してつなぎましたが術後しばらくつなぎ目のふくれのため通りがわるくなり、2週間も食事をたべさせられなかったのです。その後は、全く普通になってホッとしたのですが、別の腸をもってきてつないだ方がよかったかなと反省しています。
4.胃を切ると鉄分やビタミン、カルシウムなどの吸収が悪くなるため、5年10年と経過するうちに、貧血が進んで立ちくらみをおこしたり、骨が弱くなって腰が痛んだり、いろいろなことがおこってきます。今は良い薬があって予防可能ですから、手術をした外科の先生に相談してみて下さい。
特に要注意は、40代〜50代で胃切除を受けたあと閉経期がやってきた60代の女性。このような方の骨は、ダブルパンチをうけています。腰椎の圧迫骨折やちょっと転んだ拍子に大腿骨頚部骨折をおこしたりとか大いにあり得ますから、かかりつけの先生に相談してみて下さい。
5.胃癌を切ったけどリンパ節や腹膜に再発した、胃癌が同時に肝臓にも転移しており、余命3ヶ月と宣告されたなどの話は枚挙にいとまがなく、私自身もイヤという程みてきました。今現在もこのような患者さんの治療を入院・外来ともにたくさんかかえており、日々悩んでいます。
癌のたちの悪さという点から言うと、悪い方から順に膵、肺、食道、肝、胃、大腸、乳、甲状腺という具合に、胃癌は中くらいの悪さでなかなか効くくすりも少ないのですが、それでも最近は
“使えるくすり”
が出てきました。これを “うまく使う”
と副作用のない良い抗癌治療ができます。
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